政見放送

昔やっていたブログの読者という方から、
「前のブログの面白かった記事がもう一度読みたいんですが、どうにかならないですか?」
というメールを何通か頂きました。前のは閉じちゃって今さら再開もできないんで、せっかくですから再録してみます。
とりあえず今回はこれ。これは動画を集めていて、笑いを堪えるのに苦労した記憶があります。せっかくなので、その後に登場した超新星の動画も追加してあります。よろしかったらどうぞ。




僕は昔から選挙というものが好きで、ここ20年くらい投票は欠かしたことがないです。当日が現場等とバッティングしたときは、期日前投票にもちゃんと行ってるくらいですから。無論開票速報とかも夜中過ぎまで延々と見てます。
そんな僕が選挙に興味を持ったきっかけは、国民の権利からだとかそういう硬い理由では全然なくて、朝によくNHKとかでやってる政見放送が面白かったからです。もちろん既存の政党とかではなくて、泡沫候補が。


今は選挙制度が変わっちゃって、国政選挙ではそういう候補を見ることもできなくなりましたけど、昔は本当にすごかったからですね。基本的にノーカットなんで、朝っぱらからNHKで「東京はソ連のスパイでいっぱいだ!」と叫んだり、「アメリカが隠しているUFOの情報を公開させる」と真面目な顔で言ったり、「酢を飲むことこそが健康によろしい」と力説したりと、それはもう阿鼻叫喚と言うか何と言うか、すごい光景が繰り広げられていたものでした。
今は知事選あたりで時々そういうのが見れますけど、国政選挙はホント面白くなくなりました。こういう変な候補を締め出したことで、日本の政治はさらに堕落したと個人的には思いますけどね(ないない)。
面白い政見放送は今もいくつか見られるので、適当にピックアップしてみます。


まずは『ストリートミュージシャン』(笑)で『ファシスト』(笑)の外山恒一が、2007年東京都知事選に立候補したときの政見放送です。
これはおしゃむさんが真似してたのを見たことがあるんで、結構ポピュラーなんでしょうね。



これを最初見たときは、何かのバラエティ番組かと思いましたよ。いやー、もうバカ過ぎて最高だろww
有権者諸君、私が外山恒一である」
「こんな国はもう滅ぼせ」
「スクラップ&スクラップ。全てをぶち壊すことだ」
「諸君の中の多数派は私の敵だ。私は諸君の中の少数派に呼びかけている。少数派の諸君、今こそ団結し立ち上がらなければならない」
「選挙で何かが変わると思ったら大間違いだ。所詮選挙なんか多数派のお祭りごとに過ぎない」
「多数決で決めれば、多数派が勝つに決まってるじゃないか」
「どうして立候補したのか、話は長くなるから掲示板のポスターを見てくれ」
「改革なんていくらやったって無駄だ!」
「我々少数派はそんなものに期待しないし、もちろん協力もしない!」
「こんな国はもう滅ぼすことだ。ぶっちゃけて言えばもはや政府転覆しかぬぁい!」
「これを機会に、政府転覆の恐ろし〜い陰謀を共に進めていこうではないか」
「ポスターに連絡先が書いてあるから」(陰謀を進めてるのに連絡先とか書くなww)
「私が当選したら、奴らはビビる、私もビビる」
などと笑えるフレーズの連発で、最後は中指を立てて
「どうせ選挙じゃ何も変わらないんだよぉーっ!!!」
と絶叫するとか、下手な芸人よりずっと面白いです。キャラ立ちまくり。
確かに笑えるんですけど、結局何が言いたいんだか全然わからないところもさすがです。最近の候補者では最高のヒットですね。
しかしこの人、どうやって供託金とか用意したんだろうな?
ブログとか読む限り、そんなに金は持ってなさそうなんですが、あるところにはあるんですね。


続いてはドクター中松が、2007年参議院選挙に立候補したときの政見放送です。



まず顔がベラ・ルゴシみたいで、そこでいきなり笑っちゃうんですが。
それに北朝鮮の脅威に対して、
「私が発明した、ミサイルをUターンして戻すという、そういう発明が役に立つでしょう」
とか真面目な顔して言ってるのがすごいです。どんな発明だよww
基本的に自己顕示欲の塊の、痛いオッサンにしか見えないですけど。でも未だにこの人がフロッピーディスクを発明したとか信じてる人もいるんだよなあ。念のために言っておきますけど違いますからね*1
ちなみに冒頭の紹介で言ってる『アイジーノーベル賞』というのは正確には『イグノーベル賞』で、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられるノーベル賞のパロディです。映画でいう『ラジー賞』とか、本でいう『日本トンデモ本大賞』とかと一緒ですな。しょうもない疑似科学が受賞したり、皮肉や風刺で与えられたりすることも多い、いろいろと赴き深い賞です。


続いては三井理峯が、1991年の東京都知事選に立候補したときの政見放送です。



ちょっとまずい類のインパクトを持ったお婆さんです。
いきなり自費出版だという『我は平民』を読み始めるんですが、
「国立公園は麻薬、暴力団の隠れ蓑。上野から盛岡まで3時間、支線待ち1時間、バス待ち2時間、3時間の空費、上野盛岡3時間、なんじゃいな」
というわけのわからなさで、これはマジでヤバいと思ったのを覚えています。
たびたび入れ歯が外れるせいで、基本的に何を言っているのか全然解らないんですが、そのインパクトの強烈さと、独特の公約・政策(「ニシンを食べると怒らない」「夏休みの宿題は有害なので中止」など)により、当時の人気アイドル牧瀬里穂と並ぶ『日本の2大リホー』として一部で注目を集めていました。
よくわかりませんけど、どうも統合失調症みたいな気がします。こういう人が都知事選はおろか、衆院選参院選にまで立候補経験がある(むろん全て落選で供託金は没収)というのですから、何というか昔はおおらかだったです。


次は『ゆきゆきて、神軍』『神様の愛い奴』『ヤマザキ天皇を撃て』、昭和天皇パチンコ狙撃事件*2や皇室ポルノビラ事件*3で名を馳せた奥崎謙三が、1983年に衆院選兵庫1区に立候補したときの政見放送です。



いきなり紹介部分で「殺人、暴行、猥褻図画頒布、前科三犯、独房生活13年8ヶ月」とアナウンスされるのが新鮮です。こんな強烈なプロフィールはなかなかないですから。
かなりの早口で全ての不幸の元凶は国と政治であるという、いわばアナーキズム論を述べているわけですが、だんだん支離滅裂になってきて(最初からか)「基地外」とか放送禁止用語は連発しちゃうし、話はループするし、あげくには
田中角栄を殺したいと私は思いましたが」
とか言っちゃうしともう大変です。
ほとんどお前のほうが基地外だろって感じですが、この人の場合太平洋戦争中にニューギニアで辛苦を舐めた、いわば戦争の犠牲者でもあるので、笑っていいのか悪いのかなかなか難しいところです。もちろんいくら苦しい思いをしたからといって殺人が是認されるわけではありませんけど。
まあこの人の思想内容や生涯はとにかく、『ゆきゆきて、神軍』は傑作だと思います。
万人向けじゃないですけど、インパクトはとにかくすごいです。


続いては『唯一神又吉イエス』こと又吉光雄が、2004年の参議院選挙東京都選挙区に立候補したときの政見放送です。自らを『唯一神』とする世界経済共同体党の代表だそうです。
沖縄で選挙に出たときは「イエス様の生まれ変わり」と自称していたそうですが、どうも宗教団体とか持ってるわけではないようですね。噂では警備員で稼いだ金で選挙に出ているとか。



ダイジェストで紹介してますけど、
「よって小泉純一郎は、腹を切って死ぬべきである
「また小泉純一郎はただ死んで終わるべきもので終わるものではない。唯一神又吉イエス小泉純一郎地獄の火の中に投げ込むものである
というのがとにかくすごい。さすが唯一神ww
自我が限りなく広がっちゃってるんだろうなあ。世界が全部脳内妄想の中に納まっちゃってると言うか。
神様系の人もこれくらいバカバカしいと、笑って見てられて楽しいんですけどね。創×学会とか幸×の科学みたいなのは鬱陶しくてかなわないです。


次は「シェゲナベイべー」でおなじみのロックンローラー内田裕也が1991年に東京都知事選に立候補したときの政見放送です。



いきなりアカペラでジョン・レノンの『Power To The People』、エルヴィス・プレスリーの『Are You Lonesome Tonight』を歌い出して、下手な英語で主張(つーか海外への渡航暦、東京における音楽の流行の変遷など脈略の無い話)を演説。そのうち持ち歌の『コミック雑誌なんかいらない』を日本語で歌い始めて、最後は時間前に終わっちゃって所在なさげに黙り込み、やることがなくなったのでとりあえずカメラに向かってガンをつけるという完璧な内容です。
その日僕は宿直で職場に泊まり込んでたんですが、朝カップラーメンを食べながらこれをテレビで見て、あまりのひどさにひっくり返って笑った記憶があります(記憶違いかも)。
他にもこの人は選挙公報が「NANKA変だなぁ! キケンするならROCKにヨロシク! Love&Peace Tokyo」とだけ手書きで書かれたものだったとか、政策をフリップで書くことを求められた際に「GOMISHUSHUSHA NO TAIGUU O KAIZEN SURU」(ゴミ収集者の待遇を改善する)とでたらめなローマ字で書いたとか、すごいエピソードがいっぱい残っています。
ちなみに彼は、無所属(政党推薦候補除く)ではトップの票を獲得したそうなんですが。ぜひ東京をロックンロールで席巻してもらいたかったですねww


最後はこの部門の超新星登場。今年の2月に長崎県知事選に立候補した松下みつゆきです。



最初聞いたときは、アメ横で魚を売ってるおっさんかと思いましたが。
しかしこの異常なライムと、机を叩く音の時間差が生み出すグルーヴがたまらないです。はっきり言って日本人のヒップホップとしてはいろんな意味で最高峰レベルだろ。個人的にはZEEBRAとかより上ww
ちなみにリリックはこうらしいです。


お〜男っ


一合二合三合と一升まではいいけれど
呑んだら呑んだら危ない危ない虎になる
清水港はジャパンナンバーワン
松下ナンバーワン
俺の親父はナンバーワンさ
なんてたってなんてたってねぇ
ナンバーワンナンバーワン
なんか知らないけどもナンバーワンナンバーワン
ナンバーワンがナンバーはナンバーワン
ナンバーワンナンバーワンナンバーワン何番
はぁ嗚呼ぁ
森の石松死出の旅とも知らずに
金比羅船々金比羅船々
愛知は二ゴロ三ゴロ四ゴロ五ゴロ六ゴ七ゴ八ゴ九ゴ十五五郎
二十朗三十朗四十朗五十朗六十朗は無かったかねぇ
えぇ死出の旅とも知らないで石松良い男


以上ベリーサンキュ


いやー、いい感じに狂ってていいなあ。
とにかく何を訴えたいのかまったく理解不能なのがいいです。田舎の忘年会で酔っ払ったおっさんが得意の浪曲を一節がなってるノリですから。こういう人が21世紀になっても選挙に出れるんですから、地方ってのはおおらかであります。



こっちは一応政見らしきものを言ってはいるんですが、
「はあ〜っ、払ってください2012年から〜」
とかわけわかんなくて最高に笑えます。この人なりに韻を踏んでるのもいいですな。
そして途中からさらに意味不明な方向に暴走していって、最後には
「ワンワンワンワン」
の連呼になってるのもすごい。お前は犬かよ。
言論の自由がフルスピードで暴走している光景がここにはあります。


ボーダーすれすれのやばいピックアップになっちゃいましたけど、こういう人たちのおかげで僕は政治に興味を持ったわけで、そういう意味ではそのへんのわけわからん政治家よりもよっぽど社会の役に立っているような気もします。
まあそれは気のせいなんでしょうけど、とにかく僕はこういう人たちは嫌いじゃないです。
実際に係わり合いになるのはちょっと怖いですけどww

*1:本人は著作などでフロッピーディスクの発明者と主張しているが、正しくは、「レコードジャケットに穴を開けて、中身を取り出さずにそのまま使えるようにする」という「ナカビゾン」なる特許を、フロッピーディスクの開発者であるIBMが自社の特許に抵触せぬよう契約を結んだだけである。また契約内容は技術的なものではなく意匠に関するものであったとされている。ナカビゾンは何枚も繋がった紙の横一行一行に譜面が記録されていて、自動連奏蓄音機の譜面読みとり部分が左右に振れることで、譜面を読み込み演奏するものであり、フロッピーディスクでは磁性体が塗布された円盤が用いられていることや、セクタ単位のランダムアクセスが可能なことから、全くの別物である。なお契約がされた時点で既にフロッピーディスクは開発済みであり、彼の特許がフロッピーディスク開発に影響したとは考えにくい。

*2:1969年1月2日、皇居で6年ぶりにおこなわれた一般参賀で、昭和天皇がバルコニーにいたところ、奥崎が15メートル先から手製のゴムパチンコでパチンコ玉3個を発射。さらに、「ヤマザキ天皇をピストルで撃て!」と声を挙げ、パチンコ玉をもう1個放った。玉はいずれも昭和天皇の足元付近、バルコニーのすそかくしに当っただけだった。奥崎は暴行罪で懲役1年6ヶ月判決を受けた。当時はバルコニーに防弾ガラスは入っていなかったが、この事件を機に入れるようになった。

*3:1976年4月25日、奥崎は銀座松屋、渋谷西武、新宿丸井の屋上から、裏面に天皇一家のポルノ写真(ポルノ写真に天皇一家の顔をコラージュしたもの)を印刷したビラを約四千枚ばらまいた。このビラには全裸であったり、SMもどきの写真と皇室の顔写真がコラージュされたものが9点使われていた。休日の歩行者天国にまかれたビラは警官の必死の回収作業にもかかわらず、そのほとんどが持ち去られた。