今日の1曲

かつて英国で、ブリットポップというムーブメントがありました。
ウィキペディアにすら「正確な定義はない」と書かれているくらいで、一言で説明するのは難しいのですが、イギリス本来の気質や伝統を持ち合わせたロックとでも言うんでしょうか。
僕自身は総じてポップなメロディーを持ち、音的には原点回帰を目指していてそんなに斬新ではなかったけど、安心して聴けるみたいな感想を持っています。
オアシスやブラー、ザ・ヴァーヴ、スウェードなど様々なバンドが当時人気がありましたけど、個人的に好きなバンドはパルプでした。


パルプはブリットポップどころかパンクやニューウエーブが全盛の79年に結成され、83年のデビュー後も10年間全然売れなかったという、下積みを絵に描いたようなバンドだったんですが、おりからのブリットポップブームに乗って突如ブレイクしたバンドです。
懐かしのグラム・ロックを思わせるちょっとグラマラスなサウンドと、英国人らしく機知や皮肉に飛んだ歌詞、そしてフロントマンのジャーヴィス・コッカーの個性的な風貌と存在感が特徴で、全盛期には社会現象的な人気を誇っていました。


Pulp - Common People


これは当時大ヒットした曲です。
労働者階級の日常を知らず、動物園の猿を眺めるように彼らを見る富裕層への皮肉が込められている歌詞と、エレポップ風のサウンド、いかにも英国風の味のあるメロディ、それと今だとウィーザーあたりにもつながりそうなダメさ加減がなかなか好きでした。


しかしジャーヴィスがプレッシャーからドラッグと酒に溺れるようになると、作風は重く陰鬱なものとなっていき、結果ブリットポップのブームが去ると忘れられた存在となり、02年にはメジャー契約を失って解散してしまいました。ジャーヴィスは現在ソロとして活動(フジロックに来日したこともあるはず)する傍ら、俳優としても映画『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』に出演するなどしています。


個人的にジャーヴィスには思い入れがあるのですが、それは96年に彼が巻き起こした騒動が印象に残っているからでもあります。
それは英国のレコード大賞みたいな存在であるブリット・アウォーズでのことでした。
そこにマイケル・ジャクソンも出演して、『Earth Song』を歌ったのですが、その際ボロを着たエキストラがマイケルに触れると真っ白に清められるという、自らをキリストに模したパフォーマンスを行いました。それを見たジャーヴィスは呆れてステージに乱入、尻を突き出して屁をこくまねをしたあげく挑発的に叩いて見せて、そのステージをぶち壊したあげく警察に捕まったのです。
当然騒動になったのですが、マイケルの不遜なパフォーマンスが顰蹙を買ったということもあって、ブラーのデーモン・アルバーンのように非紳士的だと非難する意見は意外と少なく、逆に擁護する論調が多かったように記憶しています。特にオアシスのノエル・ギャラガー
「奴はスターだ。MBE*1の称号を与えるべきだ」
とまで讃えていました。またブライアン・イーノも大喜びでしたっけ。
本人は
「周囲に対し神様みたいな振る舞いをする彼が許せなかった」
と言ってますが、実際にどういうつもりだったかは別にして、自意識を極限まで肥大化させたかのようなマイケル・ジャクソンのパフォーマンスに正面から冷や水をぶっ掛けることになった彼の行為は、単純に痛快だというだけでなく、良い意味での方の島国根性、ジョンブル魂、反骨皮肉屋気質みたいなものを感じて、なかなか興味深いと思ったのを覚えています。
あの頃のマイケルの佇まいに違和感を覚えつつも何も言えなかった多くのファンと、何よりマイケル自身がこのジャーヴィスの行動によって救われたんじゃないかという気もするんですけど。

*1:イギリスの大英帝国勲章の1つ。MBE勲章。