今日の一曲

昨日の続きで、ウルトラヴォックスの顛末を書いておきます。
この手の80年代テクノポップは、少年の頃の僕の大好物でしたし。


ジョン・フォックス脱退後、残されたウルトラヴォックスのメンバーは、フロントマンとして元リッチ・キッズのミッジ・ユーロを迎え、新しいスタートを切ります。
彼らはメンズ・ファッション誌から抜け出してきたようなダンディな出で立ちに身を包み、より耳当たりがよくポップな方向性に舵を切っていきました。
そしてリリースされたアルバム『Vienna』は、当時のテクノポップブームにもうまく乗り、それまでとは比較にならないくらいのセールス的な成功を収めることとなるのです。


Ultravox - Sleepwalk

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再スタート後のアルバム『Vienna』からの第一弾シングルで、最初に成功を収めたヒット曲となりました。
ジョン・フォックス在籍時の音に通じるようなメカニカルな感触を残しつつも、非常にポップでダンサブルな音に仕上げています。
個人的には新生ウルトラヴォックスの曲でこれが一番好きですね。全体的にハイテンポでカッコいいですし、空間をねじ曲げるようなエフェクティヴな間奏も好き。


Ultravox - Passing Strangers


これも『Vienna』からのシングル。
シャープなギターとシンセの絡みを前面に押し出したアレンジは、初期のウルトラヴォックスを思わせます。
メロディがちょっと演歌入っている気もしますけど、陰影があってなかなか悪くないですね。


Ultravox - Vienna


『Vienna』のタイトルナンバー。
シンセ中心に構成された荘厳な音世界が印象的な曲で、全英2位の大ヒットを記録しています。
後半テンポが上がり、程よく抑制されたバイオリンのソロにシンセのストリングス音がかぶり、その音すらピアノに飲み込まれると徐々にテンポが下がっていき、主題に回帰していくという、この楽曲の構築美は見事としか言いようがないと思います。
このへんにはプログレッシブ・ロックからの影響も感じさせて非常に興味深いですが。


Ultravox - New Europians

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これも『Vienna』からのナンバー。
サントリー角瓶のCMソングに使われて、オリコンでも20位くらいにまで上がるヒットとなった曲です。当時日本では無名に近かったウルトラヴォックスの知名度は、これでぐんと跳ね上がりました。
とにかくイントロのギターのカッティングが非常に印象的(CMで使われたのもこの部分)で、ミッジ・ユーロがかつてハードロックのシン・リジィで、助っ人ギタリストをやっていたという片鱗を見せてくれます。
後半のリフっぽいギターソロのあとで入る、薄く冷たいシンセストリングスと低い低音の矩形波、そして最後に押し寄せる哀愁のピアノの波状攻撃もなかなか良いです。


Ultravox - The Voice


81年のアルバム『Rage Of Eden』からのシングル。
非常にポップで整合性のある音になっていて、前作からのシングルよりもさらに聴きやすくなっています。
ただ個人的にはソフィスティケイテッドされすぎで、毒や陰影が薄まってしまったのがちょっと不満ではありますが。


その後ウルトラヴォックスは、ビートルズのプロデューサーでもあったジョージ・マーティンを迎えてアルバムを製作するなど、よりコマーシャルな方向を強調していくようになりますが、あまりに時代に迎合しすぎて次第に飽きられ、またメンバーの相次ぐ脱退もあって87年には解散してしまいます。
これは80年代ポップの共通する問題点でしたね。売れるにはソフィスティケイテッドされる必要がありますが、それは均質化されて個性を失い消費されることにもつながる諸刃の剣でしたから。
そのせいで当時のテクノ、エレ・ポップ系のバンドは、長く続ければ続けるほどつまらなくなるバンドばっかりだった気がしますね。
それはとにかくとして、ウルトラヴォックスはのちにキーボードのビリー・カーリーのソロ・プロジェクトとして再結成され、09年には全盛期のメンバーが集結してライブも行われています。