今日の一曲

ナパーム・デスというバンドがありました。
「世界一速いバンド」が売り文句で、1分前後の短くて速くてうるさい音を、一気呵成に演奏するライブには、ある種のカタルシスがありました。
またメンバーチェンジの異常に激しいことでも有名で、「ファーストアルバムのA面とB面で共通するメンバーが一人しかいない」とか「ファーストアルバムの録音を開始した時点でオリジナルメンバーがもういなかった」とか、様々な逸話を持っています。


Napalm Death - You Suffer


偉大なるギャグですね。最初聴いたときは事態を把握するのに何秒かかかり、その後爆笑してしまいました。このジャンルでは無敵で不世出の作品です。
あまりはっきり覚えていませんが、この曲は確かあの『トリビアの泉』でも紹介された記憶があります。
まあこれは極端な例ですが、基本的に曲はやたらと短くて速かったバンドです。
そんな彼らも最近は曲の長さもまともになり、普通にうるさい程度の音になって活動していますが、ずいぶんと長く続けているため分派のバンドもたくさんあります。
今日はその中で2つをご紹介。つーかあとは無名なバンドばかりなので、これだけ紹介すれば事足りるわけで。


まず最初はカテドラル。
ナパーム・デスのヴォーカリストだったリー・ドリアンによって結成されたドゥーム・メタル*1バンドで、ナパーム・デスに対抗してか、当初は「世界一遅いバンド」を標榜していました。
特徴は現代のバンドのはずなのに異様に音が古びているところ。どう聴いても70年代前半の音楽にしか聞こえないのがある意味すごいです。


Cathedral - Hopkins (The Witchfinder General)


これは彼らの代表曲の一つ。
古色蒼然としたハードロックぶりと、ゴシックを狙ったら間違ってエログロに行っちゃいました的なPV、そして「俺の名はホプキンス。魔女狩り将軍だぁ」というバカの極致のような歌詞が素晴らしい。
リフは重いけどなかなかキャッチーで、ミディアムテンポのノリから生まれるグループ感もなかなか聞かせてくれます。
ちなみに「ホプキンス」というのは17世紀中頃にイングランド東部で魔女狩りを指揮し、「魔女狩り将軍」の異名をとったマシュー・ホプキンスのことです。
彼は町や村、もしくはその近郊に住む女性で、貧しく教養がない、あるいは友人が少ないといった特徴を持つものを選んで魔女に仕立て上げ、紐で縛り上げ水に入れて浮かべば有罪、沈めば無罪とする方法(洗礼を拒否した魔女は水に跳ね返されるために水に浮くという言い伝えから)をとるなどして次々と犠牲者を増やし、また魔女狩りを行うときに地元住民から特別徴税を行い大金を稼ぎ、一回ごとに当時の平均的な日当の300倍から500倍もの手数料をせしめていた、ということで悪名高い人物です。


もう一つは「リバプールの残虐王」ことカーカスです。
ナパーム・デスのギタリストだったビル・スティアーを中心に結成され、初期は本家に近いグラインドコア*2を演奏していましたが、スウェーデン出身のギタリスト、マイケル・アモットの加入後は泣きのギターソロを加え、メロディックデスメタルの元祖的存在となりました。
特徴は歌のテーマがグロテスクで非人道的なことと、複雑な構成のギターリフが多く暴力的な割に意外とテクニカルといったところでしょうか。
あと初期の邦題は『内臓大爆発』とか『硫酸どろどろなんでも溶かす』とか『炭化眼電球』とか『電子妊娠料理』とか『粘液膿性排出物』とか、奇怪なものばかりだったのも特筆すべきことでしょうか。
ロディックとはいえ基本はうるさいので、聴くときは自己責任でw


Carcass - Heartwork


アグレッシヴでブルータルなリフと、エモーショナル極まりないツインリードの融合は、さすがメロデスの元祖と呼ぶにふさわしい。
漂う哀愁味と緩急織り交ぜた構成は、とてもナパーム・デス系列のバンドとは思えないくらいです。
特にこの流麗なギターソロは日本人の感性には合ったようで、この曲の入ったアルバムはオリコンのアルバムチャートにも入るなど、このジャンルにしては高いセールスを記録しました。
カーカスは95年に一度解散しましたが、07年に再結成し、来日公演もしています。

*1:ヘヴィメタルのジャンルの一つ。速くて過激な音像をステレオタイプ化されるメタルの中にあって、遅くてダウナーなサウンドが特徴。

*2:ハードコアのジャンルの一つ。最大の特徴はブラストビートと呼ばれる、スネアやシンバルを高速で叩くドラムビート。ヴォーカルはデスボイスで、曲は1分前後の短い曲が多い。